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福岡高等裁判所 昭和36年(ラ)172号 決定 1961年8月19日

抗告人 熊本ルイ子

相手方 株式会社福岡相互銀行

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告人の主張

抗告人は本件抵当不動産の所有者であるが、抵当権者である相手方銀行の競売申立に基く本件の競売手続において、競売期日並びに競落期日が指定されたことについて裁判所からなんらの通知がなく、抗告人不知の間に昭和三六年七月四日競落許可決定が言い渡された。本件競落不動産は少くとも二百数十万円の価値があるのに僅か五十万円で競落され、抗告人は競売手続の利害関係人として多大の損害を被つている。もつとも後で調査したところ、右競売期日並びに競落期日の通知は抗告人の旧住所に送達された由であるが、抗告人には到達していない。もちろん、抗告人は競売裁判所たる福岡地方裁判所飯塚支部競売係並びに同支部執行吏小山常次郎宛に、昭和三六年四月二日住所変更届を速達通常郵便をもつて送達していたのにかかわらず、抗告人の旧住所に通知されたため、結局抗告人に対しては競売期日並びに競落期日の通知がないまま、これらの各期日が開かれ競買人に対し競落許可決定が言い渡されたものであり、この競落許可決定は違法たるを免れない。すなわち、原決定は無効であるから、本件抗告に及んだ次第である。

二  当裁判所の判断

(1)  相手方銀行の競売申立により原裁判所の選任した鑑定人草田金造の評価書によると、競売申立直後の昭和三二年八月中における競売不動産たる(一)嘉穂郡嘉穂町大隈町字町床三七一番地の三宅地五三坪の価格は、金十一万円六千六百円(坪当り二千二百円)、(二)同所三七一番地の四宅地三坪の価格は、金六千六百円(坪当り二千二百円)、(三)同所三七一番地の二の二宅地四二坪の価格は、金十万五千円(坪当り二千五百円)、(四)同所三七一番地の三、家屋番号大隈町第二五六番の二木造瓦葺平家建居宅一棟建坪三四坪二合五勺の価格は、金八十五万六千二百五十円(坪当り二万五千円)合計金百八万四千四百五十円であつて、この坪価額が甚だしく不当であるというなんらの証左もないばかりでなく、記録によれば原裁判所はこの評価額を最低競売価額として競売を実施したところ、許すべき競買申出人がないため、順次最低競売価額を低減した上、前後一〇数回にわたり競売を実施し(その間数回許すべき最高価競買申出人があつて、同人らに競落許可決定が言い渡されたが競落代金を支払わないので、その都度再競売が命ぜられた。)、昭和三六年六月二九日の最終の競売期日において、前示(一)ないし(四)の不動産四筆を一括し桑野栄男から最高価金五十万円をもつてする競買の申出があつたので、これに対し原審が競落を許可したことが認められるので、一般に不動産は年を経るに従つて高騰の一路をたどつているとはいえ、以上の経緯に鑑みると昭和三六年六月二九日当時(一)ないし(四)の四筆の不動産の価格が、二百数十万円であるとは到底考えられないことである。また真実本件不動産が所論のとおり高価であり裁判所の定めた最低競売価額が異常に低廉であるとすれば、抗告人は民事訴訟法第五四四条の規定によつて、最低競売価額が異常に低廉である旨執行の方法に関する異議を申し立てて、競売不動産の再評価を請求し適正な価額をもつてする競売手続の施行を求めて損失を防止するの途があるけれども、前説示の本件のような事実関係においては、競落価格を不当とする所論は抗告適法の理由となるものではない。

(2)  不動産競売手続の進行中利害関係人たる競売不動産の所有者が住所を移転した場合は、遅滞なく競売裁判所に対しその旨を届出ずべく、この届出を怠つたために、またその他記録中の関係資料によつても住所移転の事実が裁判所に明らかでないときは、裁判所は所有者を受取人として、その従前の住所にあて通常第一種郵便(郵便法第二一条第一号の筆書した書状)により競売期日の通知書を発送しうべく、この場合は、反証のないかぎり右通知書は通常の経過を経て新住所の所有者に転送配達されたものと推認するのが相当であり、従つて、競売期日は所有者に通知されたものと認むべきである。抗告人は昭和三六年四月二日原裁判所の競売係及び原裁判所の執行吏役場小山常次郎に対し、速達通常郵便をもつて住所変更の届をなしたと主張し、この主張には抗告人がおそくとも昭和三六年四月二日までには福岡県嘉穂郡嘉穂町大隈町三七一番地の旧住所から同県山田市下山田四八番地の新住所に移転したこと及びその旨を前示競売係と執行吏に届け出たことの両者を包含するものと解されるところ、これら両者とも認むべきなんらの証拠がなく、前示一摘示の抗告人の主張事実の記載ある本件抗告状が昭和三六年七月一一日原裁判所に提出されるに及んで、初めて少くとも同日までには抗告人が肩書地たる前記新住所に移居したということが認められるだけであつて、同日以前に抗告人が住所を変更したことを認めるなんらの証左がない。それ故、原裁判所は、昭和三六年五月二九日抗告人を受取人とし、その旧住所にあて同年六月二九日午後一時の本件競売期日の通知書を、第一種通常郵便(筆書した書状)をもつて発送したこと、同郵便物は抗告人に交付することができないとして差出人たる原裁判所に還付されなかつたことは、一件記録に徴し明らかで、これに反するなんらの証拠もない。以上の認定に依れば、たとえ抗告人が所論のとおり住所を移転したとしても前記競売期日通知書は、抗告人の新旧両住所の距離関係等から判断して、おそくとも昭和三六年六月中旬頃までには抗告人に転送配達のされたものと認められるので、本件競売期日は適法に抗告人に通知されたものと解すべきである。

ところで抗告人は利害関係人たる抗告人に競落期日の通知がないことをも原決定に対する不服事由として主張しているが、競売法第二七条第二項の「競売ノ期日」というのは、競売期日のみを意味し競落期日を包含するものではない。思うに競売期日は、いわば競売不動産の売却実施期日であつて、不動産が売却されるかどうか、何程の価額で売却されるかが一応決定される期日であつて、利害関係人の利害に影響するところが至大であるから、これを公告する外、利害関係人に各別に通知してその保護を十全にしようというのであり、競落期日は競売期日に最高価競買人がない場合は開かれることなく、最高価競買人のあることを前提としてのみ開かれ、また利害関係人のうち競落の許否につき異議ある利害関係人にしてはじめて必要、利害関係ある期日であつて、かつ、多分に裁判所の職権による競落不許の裁判を予定している(民事訴訟法第六七四条第六七五条参照)ばかりでなく、いわゆる競売期日の公告に掲げられる(競売法第二九条第一項、民事訴訟法第六五八条第一〇号)ので、すでに利害関係人に対し競売期日が通知される以上、利害関係人は競売期日の公告を見て容易に競落期日を知り得るので、法はこれを個別的に各利害関係人に通知することを規定しなかつたのである。すなわち、原裁判所が抗告人に対し競落期日を通知しなかつたのは、もとよりその所であり、これを違法とする論旨は理由がない。

要するに論旨はいずれも理由がなく、原決定には違法はないので、抗告を理由なしと認め、主文のとおり決定する。

(裁判官 川井立夫 秦亘 高石博良)

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